母の日にかこつけて、人生最大の敵に向き合ってきた。
まるでジェイソンからチェーンソーでぎったぎたに引き裂かれたように、僕の心はぐちゃぐちゃだった。
みたいなくだりは置いといて。
まあ、ちょっと些細な事なんだけどプライベートが上手くいってなくて、なんか心穏やかじゃなかったので行きつけのバーに足を運んだ。
「いらっしゃいませ。」
店内を見渡すと僕一人のようだ。カウンターのいつもの場所に座り、メニューを手に取る。ジンベースのカクテルを探すと、”ブルームーン”が目にとまった。飲んだことはない。だからこそ興味が湧く。
ー昔愛し合っていた一組の男女がいた。男はフォトグラファーで、北極から月を撮るんだ、とだけ言い残して女のもとを去っていた。哀しみに明け暮れた女は、一人バーに足を運ぶ。そんな女を見たマスターは、薄白く光る青いカクテルを差し出す。そう、それはまさしく男が追っていった風景。そして、女は呟く。「マスター、いじわるね。」と。-
もの寂しげな僕に、マスターがブルームーンの由来を語ってくれる。
てなくだりもここらへんにして。
まー飲んでたわけですよ。今週の誰ハピPJの準備しなきゃなーって思いながら。
テーマは決まってました。
前回のゴミ拾いから色々考える中、そもそも誰かをハッピーにする時間をとかいう前に身近な人に対してきちんと向き合えてないヤツがそんなことしても、「なに言ってんだい、バッカヤロー」って感じじゃないのかなーと思えてきて。
つまり、
親を喜ばせよう。
偶然にも先週母の日だし、ラッキーみたいな。
しかしこれには大きな問題がある。
実は僕、親のことあんまり好きじゃないんですよね。いやーまあ僕が未熟っていうのもあるんですが、過去の色々思い出すだけでゴフって感じで。
いやー、ほんっとムリ。
そういうこともあって、 まじでやるのかやらないのか悩みぬいた挙句、これは避けては通れない道だと決意。だがまたここで問題。
何をすればいいかさっぱりわからない。
まあ今まで全然そんなことしてきたことがないから当然っちゃ当然。
手紙と花か。。。?
てか一緒にいるだけで十分喜ぶんじゃねーのか、でもそんなのでいいのかな。
みたいな感じで3日間考え中の状態だったわけで。
ブルームーンを飲み終えてスタッフのミズキちゃんと仲良く話していたら、なんか勢いのいい姉ちゃんが来店。
なんか鳥居みゆきっぽい。
まだ飲んでないはずなのにやったらテンションが高い。じゃぱネットかっつーくらいスタッフに捲し立ててしゃべる。
するとその矛先は僕に。
「お兄さん、お仕事帰りですかー?うえーい!」みたいな。
見るからに30半ばのはずだ。うえーいってなんだよ、うえーいって。嫌いじゃないよ、そういうの。
他の客やマスターを交えて話が弾みだすと、何かのきっかけで母の日のプレゼントが話題になった。
「いや、なんか最近ね、母の日のプレゼントに現金わたすっていう人が増えてるんだけどさ。私はそんなんじゃないと思うわけっすよ!一輪の花でもいい。なにか私のことを思って動いてくれたっていうのが大事なんじゃないかなって思うんですよ!」
鳥居みゆきやばい。ちょっと惚れる。
ついでなんで、僕は悩みをみゆきにぶつけてみることにした。
「僕、今週末実家に帰ってカーネーションと手紙を渡そうと思ってるんですけど、どうですかね。」
するとみゆきが言う。
「おっにいさん!!!あんた、男の子がそんなんしちゃだめよ!!お母さん泣いちゃうよー!!!」
「でも、ホントにそれしてあげたら、お母さんすごく喜ぶと思うよ。」
みゆきハンパねえ。
そして、一週間遅れの母の日。
結局一日母のそばにいて、語らい、手伝い、買い物に出かけ、ご飯を食べて。
あっという間に日が暮れていた。
別れの時間が近づき始め、ついに母が口を開いた。
「あんた、突然帰ってきてどうしたん。」
ああ、そうだ。
「もしかして・・・、結婚?」
「いや、それはない。おれフランス人と結婚するのが夢だから。」
「そっかー!もー、なんかと思ってたわ。ただ帰ってきただけなんだね!」
即答する僕も僕だと思ったが、そこで納得する母も母のような気がする。
ホントにホントの帰り際。
「これ!一週間遅れだけど母の日だから!」
僕は準備していた紫のカーネーションと手紙を取り出した。
「あーーーーー!!!こんなの初めてやーーー!もう涙が出るーーー」
と言って母はマジで泣いていた。
まだ色々な感情が胸の中で渦巻く中、
ガチだったよ、みゆきさん・・・と心の中で呟きながら
だれハピPJ2弾の活動は、幕を閉じた。